2014年09月17日

『パールへの道』8:目の中の劇場

『目の中の劇場』というのは、高山宏さんの本のタイトルです。
大学1年の時に論文資料として買い求めたのですが、人生でもっとも衝撃をうけた読書体験だったと言っても過言ではありません。当時、高山さんは都立大学の英文学科助教授。英文学といいつつ、文化史全般に幅広い含蓄のある方でした。

その情報量たるや本当に膨大なのですが、強引にまとめて言えば「視覚の制度」を考察した本です。シェークスピアの円形劇場に始まり、後期ヴィクトリア朝まで。イギリスを舞台にくり広げられた視覚文化のあれこれが、これでもかとばかりに取り上げられていました。
それまで絵をかくことを自由な活動だと捉えていたぼくは、その行為がしっかりと「作られた」もので、全然自由じゃないって指摘にがく然としたものです。メタメタでしたね。

通常、ぼくらは遠近法にそって描かれたものをリアルに感じます。が、遠近「法」というように、それはまぎれもなく一個の制度なわけです。しかも大変によくできた。つまり、ルールをルールと思わせないほど、強固な制度なんですね。
メタ感覚にある種の自信を持っていたぼくは、自分の甘さにションボリしてしまいました。

大学に入る時には、あえてテレビを買いませんでした。それがあったら勉強にならないと思ったからです。
その判断は正しかったはずですが、高山さんの著作によってテレビ視聴をもう一段深く考えさせられました。それが持っている仕組みについてです。


実写であれ、アニメであれ、テレビの映像はカメラによって取り込まれます。それはつまり、すべての光を一点に集めることです。
この「光を一点に集める」という仕組みは、それ以外の方法が思い浮かばないほど当たり前になっています。しかし、では、いつ頃考えられたものでしょう?

答えはルネサンスです。レオナルド・ダ・ヴィンチに代表される時代ですね。
その頃、リニア・パースペクティブ(線遠近法)という技法として、視点を一点に設定する仕組みが確立されました。建築の完成予想図を「パース」と呼びますが、まさにそのことです。

実際、線遠近法は未来を描くための技法として発達しました。
まずは、視点の高さに消失点を設定します。はるか彼方にあって、ものが「消えてなくなる点」です。そこを基点に、近づけば近づくほどものは大きくなってくるわけで、世界を逆算で捉える方法とも言えます。
デザインとデッサンは同じ語源で、ディゼーニョ(計画する)というラテン語です。未来のある地点を到達点として、逆算的に現在を設計する技術を指しています。

しかし、本来ものは遠くにあってもなくなるわけではありません。あくまで仮の到達点として「0」を設定するわけです。まずは、そこに技術の大きな飛躍がありました。0の発見ですね。

0は、空の観念をつきつめた結果として、インドで6世紀頃に発明されたと言われています。それまで0という考え方は世界にありませんでした。21世紀が2001年から始まるのは、BCとADの間に0が設定されていなかったからです。
インドからヨーロッパにそれが伝わり、15世紀頃ルネサンスで視覚の技法に応用されました。ちなみに、簿記の発展も同じ頃で、やはり計算に0を取り入れた結果です。


ところで、線遠近法以前の絵はどうやって描かれていたのでしょう?
見てかくこともありましたが、基本的には記憶が大きなテクニックでした。線遠近法は絵というよりも製図に近い技術で、絵の根本は記憶です。
あれ? どこかで聞いたような?

そう。ぼく(というか、ほとんど全ての人)が絵の技術を習得していく過程というのは、そのまま美術史をなぞっているわけです。
小さい頃の絵は、記憶によって描かれます。ゾウさんだったり、キリンさんだったり。そこから徐々に対象を見て描くようになりまずが、その段階でも基本はまだまだ記憶です。美大受験などの専門的な学びで、まさに線遠近法のテクニックを身体にしみこませるのです。
ぼくがションボリしたのは、枠組の外に出ようとしていたはずが、見事なまでにレールに乗っていたからです。

さらに言えば、線遠近法は周到な権力装置としても使われます。
映画館を思い浮かべていただければイメージしてもらいやすいはずですが、画面をきれいに見られる場所は劇場のセンター。つまり、カメラの視点に近ければ近いほど、その再現を楽しめます。
その構造は、王が開催する芝居で顕著に応用されました。舞台が一番よく見られる特等席に王が座り、寵愛の順に席が決まります。芝居が楽しく見られるほど、王にかわいがられているわけです。何だかなぁ〜。

Aを頂点として7がないがしろにされる世界。やっぱり、ちょっと居心地の悪い感じがするのです。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
さて、次回は「家族の肖像」です。


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posted by Kazuki at 11:44| 『パールへの道』